横浜地方裁判所小田原支部 昭和41年(ワ)105号 判決
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〔事実関係〕原告等訴訟代理人は「一、被告は原告横山和司に対し別紙物件目録第一記載の土地について昭和三四年四月二七日和解による所有権移転登記手続をせよ。二、被告は原告小松正太郎に対し別紙物件目録第二記載の土地について昭和三四年四月二七日和解による所有権移転登記手続をせよ。三、被告は原告に対し金一八万六、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年七月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。四、訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び右第三項について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
<中略>
七、原告等、被告の代表者としての大川染吉及び浅野等は昭和三四年二月七日協議の末、山林全部を次の割合に三分し各自がそれぞれ所有権を取得することを協定した。
1. 一、五四〇坪 原告両名の取得分
2. 一、三五二坪 被告の取得分
3. 四八八坪 浅野外八名の取得分
八、次いで、原告等、被告の代表者としての大川染吉及び浅野等は、昭和三四年三月三日再び協議の結果、
(一) 被告は山林全部を合併して一筆とすること。
(二) 被告は合併後前記七の割合を基本としてこれを三筆に分割し、北側の一筆は原告横山が、南東の一筆は原告小松が、南西の残部は被告及び浅野等がそれぞれ所有権を取得したことを確認すること。
(三) 被告は被告及び浅野等の取得部分を他に売却する際には同時に他の二筆につき原告等に対し所有権移転登記手続をすること。
を約定した。
九 さらに、原告等、被告の代表者としての大川染吉及び浅野等は、昭和三四年四月二五日、先に原告等が県林産課の指示により実施した植林の補償について県係員立会の上協議の結果、
(一)被告はその取得部分から幅三メートルの道路敷地を分筆し、これを原告等の共有とし、原告等共同名義に所有権移転登記をすること。
(二) 被告は右分筆、所有権移転登記に要する費用を全部負担すること。
(三) 被告は右手続完了の際原告等に対し若干の謝金を贈与すること。
を定めた。
一〇、被告は昭和三四年四月末日頃、前記協定に基づき、原告等立会の上、山林全部につき各自の取得すべき部分を区画して現地の測量をし、原・被告等は協定による各所有権の範囲を確定した。
一一、前記のとおり、本件協定成立に際し、被告組合を代表したものは、組合長たる理事大川染吉である。農業協同組合法第三三条前段には「組合が理事と契約するときは監事が組合を代表する。」と規定されているが、右趣旨は、組合に損害を与えることを防止するため理事の自己契約を禁ずる点にある。ところが、被告組合定款第三五条、第三六条には「理事は組合長一人を互選するものとし」「組合長はこの組合を代表し理事会の方針に従つて業務を処理する」旨規定されており、被告組合は理事大川染吉を組合長に選任し、同理事に代表権限を専属せしめているのみならず、原告等の外に、組合長を除いてなお四名の理事があるから、本件協定を成立せしめるにつき被告組合に損害を及ぼすおそれは全く存在しない。かかる見地から、前記法条に理事とは過半数の理事を意味するものと解すべく、原告等が本件協定を成立せしめるに被告組合の組合長大川を代表者としてもなんら違法ではない。また民法第五七条には、「法人と理事との利益相反する事項」について「特別代理人」を選任する必要がある旨規定されているが、法人に理事が数人あつてその一部の者と法人と利益相反のときは他の理事が法人を代表して妨げないとの解釈がある。さらに、農業協同組合法第三三条前段の規定の趣旨としては、理事があらかじめ監事の支持を得、監事の承認の下に他の理事と契約を締結する場合には、理事が組合を代表しうるのであって、かかる場合には理事の権限に対する制限が撤廃されてその行為が当然有効となるものと解すべきであり、本件協定の締結に際しては、監事森勝利等は本件紛争の経緯を知悉して一切の処理を組合長大川に依頼し、協定成立後も組合長からその内容を報ぜられ昭和三四年四月二七日頃これを了承しているのであるから、監事が直接組合を代表せず理事が組合を代表して本件協定を締結していても有効である。
一二 仮りに右主張が容れられないとしても、本件協定は、被告組合長理事大川染吉が被告組合の代表権限がないにも拘らず、代表者として被告組合のため原告等との間に成立せしめたものであるから、右大川の行為は無権代理行為というべきである。ところが、被告組合の監事森田定義、同木村盛弘は昭和三五年三月二日、監事森勝利は同年三月八日いずれも原告両名に対し直接大川の右行為を追認した。したがつて、本件協定はその成立の時に遡つて効力を生じたものである。
<中略>
被告訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
<中略>
七、請求原因七の事実は認める。
八、請求原因八の事実は認める。
九、請求原因九の事実は否認する。当時原告等から、原告主張のような事項について申し入れがあり、県農地調整課長、県足柄地方事務所長等立会で協議したが、まとまらなかつたものである。
一〇、請求原因一〇の事実は認める。
一一、請求原因一一のうち、本件協定成立に際し、被告組合を代表したものが組合長たる理事大川染吉である事実は認めるが、その余の事実は否認する。本件協定は、原告等と被告との契約であり、農業協同組合法第三三条前段により、原告等は被告組合の監事と締結すべきであるにもかかわらず、理事大川染吉との間でなしたものであるから無効である。
一二、請求原因一二のうち、監事の追認の事実は認める。しかしながら、監事森田定義、同木村盛弘及び同森勝利は既に任期満了して、後任者あるまでの事務管理的職務の義務を有するに過ぎず、管理行為を超越した処分行為をすることは越権行為として無効であるのみならず、管理行為としても、被告組合員一一〇名の五分の四以上の八七名の意思に反し、かつ、訴訟提起の後の行為であつて、権限超越の無効のものである。
〔判決理由〕原告等が昭和三〇年九月二五日被告組合の理事に就任したこと、原告横山が昭和三二年八月理事を辞任する旨申し出で、さらに同年九月二五日に原告小松の理事の任期二年が満了したこと、被告組合の定款第三三条によれば理事の定数は七人で、原告横山の辞任又は原告小松の理事の任期満了によつて、それぞれ理事の定数を欠くに至つたが、その後全然理事の選任がないこと及び森勝利が現在被告組合の監事であることは当事者間に争いがない。したがつて、農業協同組合法第四一条、商法第二五八条第一項により、原告等は引続き現在までなお理事の権利義務を有するものであり、農業協同組合法第三三条後段により、本訴においては、監事森勝利は被告組合を代表する権限を有することとなる。
<中略>
六、<証拠>を綜合すれば、浅野等が昭和三二年夏頃、町農委に対し、国が山林全部を被告に売渡したことに関し異議の申立をしたこと、そこで、原告等が昭和三二年一〇月一二日、山林全部に対する従前からの使用を理由として農地法第一五条により国が山林全部を再買収し原告等に再売渡しすべき旨を町農委に上申したこと及びその結果昭和三三年一〇月頃原告等及び被告組合長たる理事訴外大川染吉が県農地課係官から和解による解決を求められ、これに応ずるに至つたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、浅野等が昭和三三年一二月国に対し山林全部の買収無効確認の訴を提起するに及び県から示談による解決を求められ、ここに原告等、被告及び浅野等が県関与の上協議を試みるに至つたことは当事者間に争いがない。
七、原告等、被告の代表者としての大川染吉及び浅野等が昭和三四年二月七日協議の末、山林全部を
1. 一、五四〇坪 原告両名の取得分
2. 一、三五二坪 被告の取得分
3. 四八八坪 浅野外八名の取得分
の割合に三分し、各自がそれぞれ所有権を取得することを協定した事実は当事者間に争いがない。
八、次いで原告等、被告の代表者としての大川染吉及び浅野等が昭和三四年三月三日再び協議の結果、
(一) 被告は山林全部を合併して一筆とすること。
(二) 被告は合併後前記七、の割合を基本としてこれを三筆に分割し、北側の一筆は原告横山が、南東の一筆は原告小松が、南西の残部は被告及び浅野等がそれぞれ所有権を取得したことを確認すること。
(三) 被告は被告及び浅野等の取得部分を他に売却する際には同時に他の二筆につき原告等に対し所有権移転登記手続をすること。
を約定した事実は当事者間に争いがない。
九、さらに、<証拠>を綜合すれば、原告等、被告代表者としての大川染吉及び浅野等が昭和三四年四月二五日、先に原告等が県林産課の指示により実施した植林の補償について県係員立会の上協議の結果、
(一) 被告はその取得部分から幅三メートルの道路敷地を分筆し、これを原告等の共有とし、原告等共同名義に所有権移転登記をすること。
(二) 被告は右分筆、所有権移転登記に要する費用を全部負担すること。
(三) 被告は右手続完了の際原告等に対し若干の謝金を贈与すること。
を定めた事実を認めることができ……る。
一〇 被告が昭和三四年四月末日頃、前記協定に基づき、原告等立会の上、山林全部につき各自の取得すべき部分を区画して現地の測量をし、原・被告等が協定による各所有権の範囲を確定した事実は当事者間に争いがない。
一一、前記のとおり、本件協定、すなわち前記七ないし九の取り決めの成立に際し、被告組合を代表したものは、組合長たる理事大川染吉である。しかしながら、農業協同組合法第三三条前段には「組合が理事と契約するときは監事が組合を代表する。」と規定されており、前記一に述べたとおり、本件協定成立当時原告等は被告組合の理事である。したがつて、本件協定が組合と理事との契約であつて、被告組合を代表すべきものは監事であつて、大川染吉に被告組合を代表する権限のないことは明らかである。もつとも、成立に争いのない甲第一九号証の被告組合定款第三五条、第三六条には「理事は組合長一人を互選するものとし」「組合長はこの組合を代表し理事会の方針に従つて業務を処理する」旨規定されており、右定款の定めるところによれば、一般的には、理事大川染吉が組合長として被告組合を代表する権限を有することになる。前記定款第三三条によれば、組合の理事の定員は七名である。そして農業協同組合法第四一条、民法第五二条第二項によれば、組合の事務は理事の過半数をもつて決することとされておるから、原告等の主張するように原告等及び組合長を除いてなお四名の理事があるとすれば、本件協定を成立せしめるような場合においても、原告等を除いて理事会の決議を成立せしめることが可能であり、被告組合に損害を及ぼすおそれがないともいえる。しかしながら、農業協同組合一般についていえば、被告組合のように組合の代表権を組合長に専属させる旨を定款に規定するものとは限らない。そのような定款の規定がなければ、農業協同組合法第四一条、民法第五三条本文により、理事はすべて組合を代表する権限を有することになり、このような場合を念頭に置いて理事の自己契約を禁ずるとすれば、農業協同組合法において如何なる規定を設けるべきか。仮りに一般的に当該理事の自己契約を禁ずる規定を設けるとすれば、本件のように定款において理事一人に代表権を専属させているような場合に、その理事と組合との契約について組合の代表者をどのようにするかの規定がさらに必要になつてくるであろう。また、理事会の決議については商法第二六〇条ノ二第二項、第二三九条第五項のような特別利害関係人の議決権の行使を制限する規定を設ける必要はないか。そのような規定を設けるとして、組合との契約の相手方となる理事が理事の過半数を占めるような場合はどのように規定するか。その他、あれやこれや考える時は、理事が組合と契約する場合の組合の代表者を如何に定めるかはしかく簡単ではない。むしろ、このような場合は画一的に監事をして組合を代表させるのが簡明であり適切であるとするものが、農業協同組合法第三三条の規定であると解するのが相当である。原告等の主張するように、「法人と理事との利益相反する事項」について「特別代理人」を選任する必要がある旨規定する民法第五七条については、法人に理事が数人あつてその一部の者と法人と利益相反のときは他の理事が法人を代表して妨げないと解釈されるとしても、その解釈をそのまま農業協同組合の理事に推及することはできない。何となれば、民法上の法人においては監事は必須の機関ではないから、一般的には理事の機能停止の場合には特別代理人ということになる。しかしながら、特別代理人は裁判所によつて選任されることが必要であり、そのような面倒な手続を踏むことなく、なるべく理事が法人を代表できるようにする必要もあると考えられ、これに反し、農業協同組合においては監事は必須の機関である(農業協同組合法第三〇条第一項)から、監事に代表権限を行使させるということはそれ程面倒なことでもなく、理事の代表権限の行使を制限することに民法上の法人の場合におけるような抵抗感はないからである。
ところで、農業協同組合法第三三条前段の規定は、組合に損害を与えることを防止するためのものであつて、右規定の趣旨は、理事があらかじめ監事の支持を得、監事の承認の下に他の理事と契約を締結する場合には、理事の権限に対する制限が撤廃されて、組合を代表しうるものと解すべきであることは、原告等の主張するとおりであるが、本件協定の成立に際して、あらかじめ監事の承認があつた事実を認めるに足りる証拠はない。もつとも、<証拠>を綜合すれば、昭和三三年一〇月頃、被告組合の理事大川染吉、同鳥海忠男、同奥山昂、同小松正太郎(本件原告)及び監事森勝利が彼員会を開き、山林全部の事件の解決方を大川染吉に一任し、協定成立後昭和三四年四月二七日に理事大川染吉、同鳥海忠男、同奥山昂及び原告小松が役員会を開き、大川染吉から協定成立に関する報告を受け、理事等がこれを了承している事実を認めることができる……が、昭和三三年一〇月の役員会における大川染吉に対する解決策の一任のみでは、本件協定についての承認と解することはできず、昭和三四年四月二七日の役員会における本件協定成立についての了承とあいまつて役員の承認となると解すべきところ、昭和三四年四月二七日の役員会には監事森勝利は出席していない。したがつて、監事森勝利があらかじめ本協定成立について承認をしていたということはできない。また差戻後の当審証人鳥海忠男は、本件協定が成立して一日か二日後に監事森田定義に協定の成立を報告しその了承を受けた旨証言し、差戻後の当審において原告小松も右同様の供述をしているが、右証言及び供述は差戻前の当審証人森田定義の証言に照らし信用できない。
一二、結局において、大川染吉は被告組合の代表権限がないにも拘らず代表者として被告組合のため原告等との間に本件協定を成立せしめたこととなり大川染吉の行為は無権代理行為というべきである。そして被告組合の監事森田定義、同木村盛弘が昭和三五年三月二日、監事森勝利が同年三月八日いずれも原告両名に対し直接大川の右行為を追認したことは当事者に争いがない。被告は、右監事等は右追認当時既に任期が満了しており、後任者あるまで事務管理的職務の義務はあるが、管理行為を超越した処分行為をすることは越権行為として無効であり、管理行為としても、被告組合員の多数の意思に反し訴訟提起後の行為であつて権限超越の無効のものである旨主張する。なるほど、<証拠>によれば、右監事等が昭和三〇年九月二五日被告組合の理事に就任したが、昭和三二年九月二五日にはいずれも監事の任期三年が満了したこと、被告組合の定款第三三条によれば、監事の定数は三名で右監事等の任期満了により監事の定数を欠くに至つたこと、その後監事の選任が全然されていないこと及び木村盛弘が昭和三六年一二月五日以後に死亡していることを認めることができる。してみると、農業協同組合法第四一条、商法第二五八条第一項により、森田定義及び森勝利が昭和三二年九月二五日から現在に至るまで引続き監事の権利義務を有するものであり(もつとも森勝利が現在監事の権利義務を有することは当事者間に争いがない)、木村盛弘も昭和三五年三月二日の前記追認当時監事の権利義務を有していたものであるといわなければならない。しかしながら、右のように監事の任期満了後なお監事の権利義務を有する者の権限も、本来の監事の権限となんら異るものでなく、右のような者の権限が制限されている旨の被告の主張は独自の見解であつて採用できない。(石井敬二郎)